物流の「新・世界標準」フィジカルインターネットとは!?
こんにちは!
LOCAL LOGITEXの佐藤慶樹(けいき)です。
早速ですが、みなさんはこのニュースを覚えていますでしょうか。
ヤマト、メール便配達を日本郵便に移管 ネコポスも(2023年6月19日 日本経済新聞)
物流業界の方はもちろん、物流業界以外の方からも注目を浴びたので、記憶に新しい方も多いと思います。
私はこの記事を、
「フィジカルインターネットの時代にまた一歩近づいた」
という視点で見ていました。
フィジカルインターネットというワードは、まだまだ文献やメディアへの露出が少ないので、馴染みのない方も多いのではないでしょうか。
私がフィジカルインターネットの関連本やネット記事を読んだ第一印象は、
「で、結局フィジカルインターネットってなに??」
ということでした。
同じような感想をもった方もいると思いますので、今回は私なりの解釈と”フィジカルインターネットが実現した後の世界”について触れたいと思います。
1.フィジカルインターネットとは
わたしは「フィジカルインターネット」という言葉をこの書籍で初めて知りました。
この本によると、「フィジカルインターネット」という名称を提案したのは著者であるブノア・モントルイユという人で、共著者であるエリック・バローとラッセル・D・メラ―とともに、こう定義づけしています。
フィジカルインターネットは、相互に結びついた物流ネットワークを基盤とするグローバルなロジスティクスシステムである。
引用:『フィジカルインターネット 企業間の壁崩す物流革命(日経BP)』ブノア・モントルイユ(他)著
その目指すところは効率性と持続可能性の向上であり、プロトコルの共有、モジュラー式コンテナ、スマートインターフェースの標準化を図る。
簡単にいうと、インターネットのパケット通信の考え方をフィジカル(物理的)なモノの移動に当てはめたロジスティクスシステムです。
物流の車両・道具・システムなどをインターネットのように企業間の壁を越えて相互接続(シェア)することで効率性を上げ、持続可能な世界を創りましょう!という意味合いだと私は捉えています。
2.経産省の「フィジカルインターネット・ロードマップ」
経済産業省と国土交通省はフィジカルインターネット実現会議で、2040年を目標としたロードマップを取りまとめています。
引用:経済産業省「フィジカルインターネット・ロードマップを取りまとめました!」
(1)フィジカルインターネットが実現する価値
このロードマップでは、フィジカルインターネットが実現する価値として、次の4つを挙げています。
①効率性(リソースの最大限の活用・CO2排出の削減等)
②強靭性(災害にも備える生産拠点や輸送手段の多様化等)
③良質な雇用の確保(労働環境の改善・新産業の創造等)
④ユニバーサル・サービス化(買い物弱者や地域間格差の解消等)
特に①の効率性は日本の目下の課題だと私は認識しています。
(2)日本におけるトラックの平均積載率は約40%
冒頭のヤマト運輸と日本郵便の記事もそうですが、これまではほとんど同じルートを別々の会社のトラックが何台も走っているような状況でした。
積載率が高ければ問題ないのですが、日本におけるトラックの平均積載率は約40%と言われており、2台に1台以上が空気を運んでいる状態と言えます。
皆さんの会社やご自宅でも「さっきA社のトラックが来て、その後すぐにB社のトラックが来た」なんてことがありませんでしょうか。それを1度に済ませることができるようになれば、受け取る側にもメリットがありそうです。
この点についてはメーカーや流通大手はすでに動き出していますが、この動きを会社や業界の垣根を越えて実行できるかがカギになります。
デンソー、幹線物流で共同輸送 7社で実証実験 – 日本経済新聞
(3)SDGsに寄与
このロードマップでは「持続可能な開発目標(SDGs)における17の目標のうち、8つの目標(保健、エネルギー、成長・雇用、イノベーション、不平等、都市、生産・消費、気候変動)の達成にも寄与します」と書かれています。
特にトラックや海上コンテナの積載率向上によって気候変動(地球温暖化)には大きく貢献できると思います。
この他にもパレチゼーションやコンテナを活用したユニットロードシステムの標準化やバース予約システムなどはフィジカルインターネットを成す重要なツールであり、いま話題の「物流の2024年問題」の解決策としても期待されています。
(ユニットロードシステムや2024年問題については、また深堀した記事を書きたいと思います!)
3.フィジカルインターネットが実現した後の世界
あまり遠くない将来にはトラックに代わり、大型・小型問わずドローンの自動運転によりモノが運ばれる時代が来ると予想します。
大手物流企業は地方の課題を解決するため、既に動き出してします。
インターネットは、相互接続による互換性をもって飛躍的に普及しました。
今は信じられないかもしれませんが、フィジカルインターネットも「どこの倉庫」「どこのトラック(ドローン)」「どこのシステム」という垣根を越える日が必ず来ると思います。
フィジカルインターネットは、物流のユニバーサルサービス化、社会インフラ化を加速させるでしょう。
サプライチェーンも変わります。
ECで原材料を調達して、3Dプリンタで製造。ECで注文を受け付ければ、あとはフィジカルインターネットのプラットフォームに乗せるだけです。
モノを出す側は「品名と数量、届け先住所」を指定するだけで自動的に集荷され、モノが届くようになるのです。
製造業は今よりも研究開発やブランディング、マーケティングに注力できるようになっているでしょう。
2021年6月に開かれた第8回国際フィジカルインターネット会議においてPhysical Internet Builder Awardを受賞した野村総合研究所(NRI)の水谷禎志氏はこう言っています。
「モノを運ぶには、トラック、鉄道、船、飛行機など、さまざまな輸送手段があります。
引用:NRI JOURNAL「物流革新で、なぜ「フィジカルインターネット」が注目されるのか」
例えば、荷主であるメーカーが製品を出荷する際、物流会社に委託したり自社でトラックを手配したりして、顧客に指定された場所・日時に製品を届けます。
ところがフィジカルインターネットでは、極論すれば荷主が決めるべきは「何をいつまでに届けるか」のみ。荷主は輸送手段や経路を気にする必要はありません」
水谷は、私たちが利用するインターネットを例に挙げます。
「インターネットでは、データがパケット(小包)に分割され、共有された複数の回線・ルーターを最適なルートをたどって瞬時に送信者から受信者に届けられます。
インターネットを利用する私たちがデータを送るとき、どの回線をどうたどるかを気にすることはありません。この仕組みを物流にあてはめたのがフィジカルインターネットです。
輸送手段や倉庫を関係者がシェアして効率的な物流を実現する。まさに物理的(フィジカル)なインターネットなのです」
そして蓄積した物流データをシェアすることで更に効率的に、持続可能な社会になっていくことが期待されています。
4.最後に
ただし、既得権益や各業界のパワーバランス等によって、今すぐに実現することは考えにくいです。
インターネットがそうだったように、実現へのカギは企業間のプロトコル(通信規約)になると思います。
各社や各業界がそれぞれ個別最適を目指しているうちは大きな効果は得られません。大きな視点で全体最適化を目指し、世界に先駆けてフィジカルインターネットがひとつの国家戦略のなかで実現すれば日本は競争力を取り戻すでしょう。
冒頭で述べたとおり、必要に迫られる形で企業間の協業が始まり、緩やかにフィジカルインターネットの時代に近づいています。
私はフィジカルインターネットを実現するのは、システム会社でも、荷主企業でも、3PL事業者でも、宅配大手でもないと思っています。
これらの業界を巻き込み牽引していく、まったく新しいフィジカルインターネットプラットフォーマーが登場すると予想しています。
LOCAL LOGITEXの事業構想段階で、このフィジカルインターネットは念頭にあり、荷主企業の製造から配送手配までを一括代行するサービスを立ち上げた経緯があります。
我々も日本を代表する”フィジカルインターネットプラットフォーマー”になれるよう日々精進していきます。
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以上、今回はフィジカルインターネットについて解説しましたが、いかがでしたでしょうか。
サプライチェーンを構築するうえで少しでも課題をお持ちの方はぜひ、こちらのページからお気軽にお問い合わせください!